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岡山地方裁判所 昭和53年(ワ)602号 判決 1981年7月17日

原告

穂積実

ほか一名

被告

吉永克己

主文

一  原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らに対し各金一〇七三万四〇八八円及び内金一〇四三万四〇八八円に対する昭和五三年五月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文同旨

2  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和五三年五月三日午後二時四〇分ころ、岡山県邑久郡長船町福岡一七〇七番地の七先町道において、大型貨物自動車(登録番号岡一一は三六三七)を運転中、訴外穂積秋生(以下、単に秋生という。)を自車左側車輪で轢過し、頸部切断により即時死亡せしめた。

2  被告は、本件事故当時右加害車両(以下、被告車という。)を所有し、自己のため運行の用に供していた。

3  原告らは秋生の両親である。

4  本件事故により次の損害が生じた。

(一) 秋生の逸失利益 金二八二九万五一七六円

秋生は死亡当時満一六歳であり高等学校卒業後就職予定であつたが、その将来における収入額については、全労働者の学歴別平均賃金(昭和五〇年度賃金センサス)によると旧中・新高卒の年間給与額は金二二六万五一〇〇円であり、これより生活費五〇パーセントを控除した残額に就労可能年数に対応したホフマン係数二四・九八三六を乗じると右の額になる。

(二) 原告らの慰謝料 金六〇〇万円(各金三〇〇万円)

(三) 葬儀料 金四〇万円

(四) 弁護士費用 各原告につき金三〇万円

5  原告らは、本件損害の填補として、自動車損害賠償責任保険金一三八二万七〇〇〇円を受領した。

よつて、原告らは、各自、被告に対し不法行為による損害賠償として金一〇七三万四〇八八円及び内金一〇四三万四〇八八円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和五三年五月四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をなすことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は、そのうち事故の態様は否認するが、その余の事実は認める。

2  同2、3の事実は認める。

3  同4の事実は否認する。

4  同5の事実は認める。但し原告らの受領金額は一三八二万九三〇〇円である。

三  抗弁

1(一)  本件事故は吉井川東岸の堤防上に設置された道路(以下本件道路という。)上で発生したものであり、現場付近には堤防の東側面から堤防上へ通ずる側道(以下、本件側道という。)がある。本件事故は、被告が被告車を運転して時速約四五キロメートルで本件道路を南進、本件側道との交差点にさしかかつた際、秋生運転の原動機付自転車が本件側道から一時停止することもなく被告車の直前にとび出したため発生したものであるが、本件側道は相当な傾斜の坂道となつており、かつ、被告の進行方向左側に位置するため、秋生が本件側道の頂上に現われるまでは被告は同人を発見できない客観的状況にあつた。被告は秋生を発見後直ちに急制動、右急転把の措置をとつたが間に合わなかつたものであり、被告にとつて本件事故は予見可能性も結果回避可能性もなかつた。

(二)  秋生は原動機付自転車を運転、被告車を追走していたが、これを追い越そうとして本件道路から一旦本件側道へ入り、これをかなりの速度で通過した後再び本件道路へ出た。

しかし、その際一時停止も減速もせず、且つ、本件側道と本件道路との接続部分の未舗装部分を走行したためバランスを失つて転倒、被告車の直前へ投げ出されて本件事故に遭つたものであり、本件事故は専ら同人の過失によるものである。

(三)  本件事故当時被告運転車両には本件事故の原因となるべき構造上の欠陥、機能上の障害は存しなかつた。

2  被告は、原告穂積実に対し、自賠責保険金以外に金一一七万三〇〇〇円を支払つている。

3  仮りに免責が認められないとしても、秋生には前記1(二)に述べたとおりの過失があり、右過失は損害額の算定にあたつて斟酌されるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実中、(一)、(二)の事実は否認し、(三)の事実は知らない。

2  同2の事実は認める。

第三証拠

本件調書中の証拠目録を引用する。

理由

一  請求原因1の事実は、事故態様及び秋生の死因の点を除き当事者間に争いがない。

二  そこで次に本件事故の態様につき判断する。

原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証、成立に争いのない乙第一号証、証人佐藤辰也・同今田知之の各証言(但し各証言中後記認定に反する部分を除く。)、被告本人尋問の結果を総合すれば次の事実が認められる。

(一)  本件事故は吉井川東岸の堤防上に設置された南北の道路上で発生したものであり、本件道路は東側アスフアルト舗装部分の幅員が約四・三メートル、西側未舗装部分の幅員が約三・五メートルで、本件事故現場付近では東側に緩い弧を描いている。また本件道路東側に沿つて幅員約二・五メートルのアスフアルト舗装された側道(本件側道)が設置されており、本件側道は現場付近で本件道路と交差接続している(以下、この交差点を本件交差点という。)。

(二)  被告は、荷台に砂利を満載した大型貨物自動車(被告車)を運転して本件道路を時速約五〇キロメートルで南進していた。他方、秋生、佐藤辰也、今田知之の三名はそれぞれ二輪車を運転して、本件道路を被告車に追走して南進していたところ、佐藤及び秋生の両名は本件道路脇にある本件側道を通つて被告車を追い越そうと考え、本件交差点より約二〇〇メートル手前で本件道路を左折して本件側道に進入した。そして佐藤は時速約一〇〇キロメートルで本件側道を通過して被告車より先に本件交差点から本件道路に再び無事進入し、秋生も排気量五〇CCの原動機付自転車を運転して、佐藤に続いて本件側道を時速約七〇キロメートルで通過し、そのまま本件交差点において本件道路に進入しようとした。

(三)  ところが、本件側道左側端と本件道路の左側端との交差部分の角には未だ舗装されていない段差部分があつたため、被告車に先んじて本件道路に進入しようとして一時停止も減速もすることなく右部分にさしかかつた秋生は、これにハンドルを取られてバランスを失い、ふらつきながら約一二・四メートル走行した後ついに転倒し、その勢いで本件道路舗装部分を南進してきた被告車の直前に投げ出された。

(四)  一方本件交差点付近にさしかかつた被告は、約四〇メートル前方を本件側道から本件道路に進入する佐藤運転の自動二輪車を発見し、これに注意を払つていたところ、後続の秋生が一旦ふらついた後転倒し自車直前約一一・五メートルの位置に転がり込んできたのを認め、直ちに右転把急制動の措置を採つたが間に合わず、一七・一メートル進んだ地点で秋生を被告車左前輪により轢過した。

三  右に認定したところによると、秋生運転にかかる原動機付自転車は時速約七〇キロメートルで本件道路に進入したのであるから、ハンドルをとられた後約一二・四メートル進行したとしてもこれを時間的に見ると約一秒程度のものであつたものと推認できる。そして被告がその一部の状況を現認していることからして被告において最大限更に約一秒早く(即ち被告車の速度は約五〇キロメートルであつたのであるから約一三・八九メートル手前〔轢過地点からすると約三一メートル手前〕で)危険を察知することのできた可能性は否定できない。そして被告が右の時点で危険を察知していたならば、時速五〇キロメートルで進行中の車の制動距離は約二五メートルであるから、被告車は秋生の約六メートル手前で停止し得たものと考えられる。従つて被告の無過失の主張はこの点からして未だ立証されたとすることはできない。しかし、秋生は、被告車を追い越そうとして本件道路脇にある本件側道を時速約七〇キロメートルで走行し、被告車が本件道路を進行中であることを知りながら一時停止も減速もしないで本件道路に進入した上、被告車進路前方一〇数メートルの地点において自らの不注意で転倒したというのであるから、前示の可能性として考えられる被告の過失と秋生の過失を比較すると本件事故における秋生の過失割合は少なくとも七割を下ることはないというべきである。

四  ところで、原告らは本件事故による秋生の損害として逸失利益金二八二九万五一七六円を主張するところ、仮にこれを前提とし、更に秋生に対する慰謝料金九〇〇万円(諸般の事情を考慮すると慰謝料としては金九〇〇万円が相当である。)を加えると、秋生の損害は金三七二九万五一七六円となるが、前示過失割合により過失相殺をすると秋生としては被告に対し金一一一八万八五五二円の損害賠償請求権を有していたことになる。しかし、原告らが自賠責保険から既に金一三八二万七〇〇〇円を受領したことは当事者間に争いがなく、被告が原告穂積実に対し更に金一一七万三〇〇〇円を支払つたことも当事者間に争いのないところであるから、これから葬儀費用金四〇万円を控除しても原告らが秋生から相続した損害賠償請求権は、既に消滅していることとなる。また原告らの被つた精神的損害については、秋生の損害が慰謝料も含め右のように填補された以上、これにより回復されたものと認められる。なお葬儀費用が填補されていることは右に述べたところから明らかである。

五  よつて原告らの本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡久幸治)

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